台湾の統一地方選挙で国民党が大敗---今後、「左派回帰」と「政治的無関心」の波が東アジアを覆うのか?
2014年12月01日(月)

現代ビジネスより
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41263?page=2





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(文転載)
こうした「東アジアの政治サイクル論」(と私は勝手に呼んでいる)に従えば、「今日の台湾」を研究することによって、「明日の日本」が見えてくるのである。いま台湾で起こっている現象は、必ず数年後に日本にも起こるということだ。

なぜこのような現象が起きるかと言えば、台湾は日本と同じ島国で、面積も経済規模も日本の1割程度のため、様々な「風」が吹くと、靡きやすいからだ。「風」というのは、「2大国」(アメリカと中国)の指導者の志向や政策だったり、世界経済と自国経済の状態だったり、国民の生活感だったりする。

「馬英九総統は国民党のラストエンペラーになる」

だいぶ前置きが長くなってしまったが、今回の台湾統一地方選挙では、与党・国民党が大敗北を喫し、逆に野党・民進党が大躍進した。全体の得票数は国民党が40.70%、民進党が47.55%だった。22の県と直轄市のうち、国民党は15→6となり、民進党は6→13となった。台北市長に初当選した柯文哲も無所属ではあるが民進党系なので、これを含むと14だ。

特に重要な6大直轄市の当選者は、以下の通りだった。

台北市 民進党系無所属 柯文哲 57.16%(得票率、以下同)
新北市 国民党     朱文倫 50.06%
桃園市 民進党     鄭文燦 51.00%
台中市 民進党     林佳龍 57.06%
台南市 民進党     頼清徳 72.90%
高雄市 民進党     陳菊  68.09%

つまり与党・国民党の1勝5敗である。2016年1月の次期総統選における国民党の最有力候補である朱立倫新北市長でさえ、民進党候補に1.28ポイント差という薄氷の勝利だった。

11月29日深夜に選挙結果が出ると、江宜樺行政院長(首相)が「責任を取って辞職する」と述べた。馬英九総統も、事実上のお詫び会見を開いた。馬英九総統は、あと一年余り、完全なレイムダック政権となる。

選挙戦終盤には、馬英九総統が、唯一確実に勝てそうな、台北市に隣接した新北市で、朱立倫市長とともに国民党の大集会を開いた。そこに今回の選挙の主要候補者42人を全員集合させようとしたが、何と3分の1しか候補者が集まらなかった。この様子を見た時、私は国民党に勝利はないと確信した。

台湾の著名な政治評論家・南方朔氏は、台湾で最高部数を誇る新聞『自由時報』に、次のような文章を寄稿した。

〈 今回分かったのは、馬英九総統は国民党のラストエンペラーになるということだ。国民党は初代の蒋介石、二代目の蒋経国の時代が全盛期で、後は衰退の一途を辿ってきた。一昔前までは、北部は国民党、南部は民進党の地盤と言われてきたが、両者を分ける分水嶺は、濁水渓→大甲渓→淡水河と北上する一方だ。

われわれは「二段階変転論」を考えるべき時だ。第一段階は地方変転で、これが2014年11月。次に来るのが中央変転で、2015年12月の総統選挙だ。

また、いまや国民党の馬英九総統でさえ、香港の民主化を支持すると述べている。次に民進党政権となったら、中国大陸との関係は悪化するだろう。 〉



馬英九・国民党政権は中国大陸に近づきすぎた


私は、「台湾優先、自由第一」のスローガンを掲げる『自由時報』の本社を訪れ、旧知の胡文輝編集長に選挙の総括をしてもらった。
以下は、私との一問一答だ。

---今回の選挙が意味するものは何ですか?

「一言で言えば、馬英九・国民党政権は中国大陸に近づきすぎたという民意だ。2013年の台湾経済は、馬英九政権の親中政策によって、対中投資がその他の地域への投資の2.54倍となり、その結果、台湾域内の消費は42.21%も減った。つまり馬英九政権に従っていたら、中国大陸に吸い取られて台湾は死滅してしまうのだ。今回、台湾人はこうした傾向に対して、極めて強い危機感を持って『NO!』を突きつけたのだ」

---しかし「鴻海」(中国でiPhoneなどを生産)に代表されるような、中国大陸に進出して大成功を収めた台湾企業も多いのではないですか?

「台湾企業が中国大陸に進出しても、日本のマンガ『進撃の巨人』と同じで、巨人となって台湾人を喰ってしまうだけだ。鴻海は、1980年代後半に中国大陸に進出した時、社員150人にも満たない中小企業だった。いまは台湾で6000人雇用しているが、中国大陸では129万人も雇用している。潤ったのは中国大陸であって、台湾ではない。2006年から2012年の経済統計を見ると、中国大陸で33人雇用するごとに、台湾では一人失業するのだ。

つまり台湾企業がいくら中国大陸に進出しても、『鮭魚返郷』(サケが大きくなって産卵のため生誕地に戻る)効果は上がっていないのだ。逆にデメリットは、他にもある。台湾の大企業の生殺与奪を中国共産党に握られ、国家の安全と自由民主が脅かされている」

---首都・台北市で国民党が敗北したことを、どう受け止めていますか?

「国民党候補の連勝文は連戦・元副総統、国民党主席の息子だが、44歳にもなって、何の実績もない男だ。彼のバックにあるのは、国民党、権貴(既得権益を持つ富裕層)、それに中国大陸の3つだけだった。台北市民は、旧体制の権化のような連勝文に辟易しているということだ」

---それでは、国民党を破って見事、台北市長となった柯文哲(55歳)をどう見ていますか?

「柯文哲は、台北大学病院の心臓外科医で、政治経験はない。また今回、民進党に入党せず、最後まで無所属で選挙戦を戦ったことも、市民に新鮮なイメージを作り出した。だから市長になっても、民進党に入党しないだろう。

これから一年間は、柯文哲市長と馬英九総統が全面的に対立することになる。さらに、台北市議会も国民党が力を持っているので、市長と議会も対立する。このため、台北市政は停滞を余儀なくされるだろう」

---来年末の台湾総統選挙をどう予測しますか?

「今回の選挙結果によって、蔡英文・民進党主席が当選する確率が、かなり高くなった。台湾初の女性総統の誕生だ。(今回ギリギリで再選を果たした)国民党のホープ、朱立倫新北市長は、おそらく総統選出馬を断念するだろう。そうなるとなおさら、蔡英文主席が有利になる。だが蔡英文が総統になったら、中国大陸との関係が、非常に複雑なものとなるだろう」

---その中国の習近平政権をどう見ていますか?

「習近平は先代の胡錦濤とはまったく異なる指導者だ。習近平は中国のすべてを自分の手で変えようとしており、それには台湾の統一も含まれる。福建省時代の習近平は、台湾人に対して腰が低かったが、いまや強い圧力をかけて統一に持って行こうとしている。



習近平は9月に訪中した台湾超党派議員団に対して、初めて『祖国統一事業を子々孫々に残してはいけない。早期に一国二制度方式で統一しよう』と呼びかけた。だが、ほとんどすべての台湾人は『第二の香港』にはなりたくないと考えている。自分たちのトップさえ自分たちで選べないような『一国二制度』など、絶対に『NO!』だ」



「今後、中国大陸が台湾を必要とする時代が来る」

続いて、『自由時報』の創始者で、李登輝総統の「刎頚の友」として知られる呉阿明会長にも面会して話を聞いた。呉会長は91歳になった現在でも、矍鑠として日々出勤し、毎日の社説に指示を与えている。まさに「台湾のナベツネ」だ。

「台湾はすでに立派な独立国だ。この状態を続けていればよいのだ。そして経済は中国大陸を頼り、政治は日本を頼り、軍事はアメリカを頼って生きてゆけばよいのだ」

台湾でここ数年、出す本がすべてベストセラー1位に輝いている人気評論家がいる。範疇氏である。台湾の書店に行くと、店頭に『中国とは無関係』『台湾は誰のものか?』『台湾は死んでしまうのか?』といった範疇氏の著作が堆く積まれている。基本的には中国批判なのだが、その舌鋒の鋭さから台湾言論界で最も影響力を持つ評論家である。

その範疇氏と、ランチを共にしながら、台湾の行く末について議論した。範疇氏は、次のような「中国論」を披歴した。

「私は今後、中国大陸が台湾を必要とする時代が来ると見ている。中国共産党では、習近平を始めとする500家族くらいが利権の争奪戦を行っていて、この先乱れていく。500家族の誰もが中国共産党の一党独裁体制を変えたくないのだから変わりようがないが、それでも50年くらいのうちに乱れていく。

そして、台湾の重要性を再認識し、民主化した台湾に中国大陸を変えてもらおうという機運が起こってくると思うのだ。その時こそ台湾にとって『台湾改変大陸』(台湾が中国大陸を変える)の千載一遇のチャンスではないか。

それから、日本人は中国人と台湾人が別者と認識しているようだが、それは表面上のことにすぎない。カネが絡むと、中国人と台湾人は何も変わらなくなる。だから台湾人は中国人と離れようがないのだ」


この「台湾改編大陸」という概念を、私が初めて聞いたのは、総統になる前の馬英九台北市長にインタビューした時だった。当時の馬英九氏は、「私が総統になったら、中国大陸に民主化を教え込み、台湾が大陸を変えるのだ」と意気込んでいたものだ。

だが馬英九総統の任期は残り一年余り。いまや政権支持率は10%台前半に落ち込んでおり、中国大陸どころか台湾を変えることすらままならない。あれだけ颯爽としたハンサムボーイだったのに、いまやめっきり老け込んでしまった。

今回、台湾に出向している日本政府の幹部とも会って話を聞いた。彼もある意味、「台湾は中国と離れられない」という範疇氏と似た見方をしていた。

「台湾は中国大陸と、国民党が復権した2008年に直行便を結び、2009年に中国からの投資と旅行を解禁し、2010年にECFA(両岸経済協力枠組協議)を発効させた。いまや輸出の4割が中国大陸向けであり、中国大陸からの旅行者が年間400万人も押し寄せる。まさに中国大陸のおかげで、2014年の経済成長は推定で3.8%に達する見込みだ。そんな中国と離れることなどできるはずがない。

鴻海に代表されるような大陸進出によって大成功した台湾企業は、中国大陸の人件費と物価の高騰によって、岐路に立たされている。私の見立てでは、台湾企業の2割は高付加価値製品を作ることで凌ぐ。3割は業種転換することで凌ぐ。残りの5割は、中国大陸を捨てて東南アジアに移ることになるだろう」



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国民が選挙に対して非常に冷めてきている印象を持った。

例えば首都・台北市では、市長の座を巡って、国民党の連勝文候補と、左派・無所属の柯文哲候補が、激しい選挙戦を繰り広げた。だが盛り上がっていたのは、政界とマスコミ業界だけで、肝心の一般国民は、「まるで他人事」だったのである。

2000年の総統選挙の時、地区を挙げて陳水扁・民進党を応援していた市場へ行って、そこの店員たちに台北市長選挙について聞いたみた。そうしたら、「そういえばこの間、選挙運動で蔡依珊が来たけど、テレビで見るよりきれいだったわ」くらいの感想なのである。

国民党の連勝文候補は、前述のように連戦・元副総統、国民党主席の息子で、台北一の高級マンションに住んでいる大富豪の一族である。その夫人・蔡依珊も、台中の船舶王の孫娘で、カナダ育ち。叔母は蒋介石総統の孫に嫁いでいて、母親は小豆ビジネスで大成功を収め、姉は元テレビキャスターという有名な大富豪の美人姉妹だ。街の人は、そんな「台湾一のセレブ夫人を見た」と言って喜んでいる程度の選挙だったのである。

東アジアを「民主主義の危機」が覆いつつある

さておしまいに、冒頭の「命題」に戻ろう。つまり、「今日の台湾で起こっていることは、明日の日本で起こる」という法則に立てば、今回の台湾統一地方選挙を通じて、近未来の日本に何が見えてくるのかということだ。

私は二つのことを感じ取った。一つ目は、日本において民主党を中心とした野党が復権するということだ。

おそらく来年末の台湾総統選挙では、蔡英文・民進党主席が当選するだろう。続いて2017年末の韓国大統領選では、このままいけばやはり左派の朴元淳ソウル市長が当選する可能性が高い。

こうした左派回帰の潮流を受けて、日本でも民主党を中心とした野党が復権するのだ。ただしそれは、今度の14日の総選挙でではないだろう。今回の総選挙は、近未来の民主党復権へ向けた第一歩となる選挙だろう。躍進はするだろうが、政権を取りに行く選挙ではない。

台湾でもう一つ感じたのは、有権者の急激な政治離れである。台湾で民主的な選挙が始まったのは、ちょうど20年前の台北市長選挙からだったが、過去20年の台湾の選挙を見ていると、青陣営(国民党)と緑陣営(民進党)に国を二分しての戦いだった。まるでオセロゲームのように、各選挙区を青色と緑色とが奪い合っていく選挙だ。

ところが今回、民主党公認を拒否して無所属で立った柯文哲・台北市長候補のように、「国民党も民進党も好きではない」という人々が急速に増えた。事実上、「第三の受け皿」は存在しないから、多くの有権者が「政治的無関心」に陥ったのだ。

今度の衆議院選挙を見ていると、まさにその予兆が日本でも表れてきている気がする。東アジアを「民主主義の危機」が覆いつつある。その結果、得をするのは、隣の非民主主義の大国である。

(転載終了)