ダボス会議にようこそ 第2回 今年の会議で見えてきた世界の課題
2015年02月18日(水)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42127#


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2015年のダボス会議、すなわち世界経済フォーラム年次総会メイン会議場の様子
いま、世界は大きなターニングポイントを迎えつつある。われわれはどこへ向かおうとしているのか?今年のダボス会議で見えてきた世界の課題と新しい流れとは?

大きなテーマがいくつもあったのが今年の特徴

2015年のダボス会議――世界経済フォーラム年次総会は、1月21日から24日までスイスのダボスで行われました。

第1回の原稿にも書いたように、会議の開催前に私は、イスラム国、ロシア、ユーロの問題などが、大きな話題になると考えていました。

イスラム国に関しては、ちょうど会議開催の直前に、日本人人質が映った脅迫映像が全世界に流れたこともあり、多くの参加者から「日本もたいへんだね」といった慰めの言葉をかけられました。

しかしイスラム国の問題については、会議のほとんどの参加者にとって、いまのところ事態をどう解決していくかというより、事態の推移を見守るしかないという状況です。

決定権のある人間が、実際に会議で議論することで、どのように問題を解決していくかを探ることが、ダボス会議の大きな意義のひとつということを考えると、事態を見守る段階であるイスラム国問題は、テーマとしては大きなトピックにはなりませんでした。

会議の主宰者であるクラウス・シュワブ会長は会議前、メディアに展望を語りました。

「今回のダボスは、いくつかの問題が混在していて、ひとつのテーマではくくれない。だが今回が世界のターニングポイントになるのではないか。あとで歴史を振り返ったとき、『あのとき、きちんと対処しておけばよかった』となるかもしれない」

確かに、これまではリーマンショック、ユーロ問題など、年ごとに大きなテーマがありました。そういう意味で今年のダボスは、いろいろな問題が複雑に絡み合っている、そしてその一つひとつが将来に大きな影響を与えうる重要なテーマであるというのが特徴だったと思います。



『サイバーセキュリティ』への関心の高さ

そのなかで私の印象に残ったのは、サイバーセキュリティ問題です。

私の専門分野でもあり危機感は強いのですが、サイバーセキュリティ関連のセッションが例年よりかなり多くなっていたことには正直驚きました。さまざまな専門家が多くの角度からサイバーセキュリティについて議論していました。

これまではどこか「まだ先のこと」「人ごと」ととらえる人が多かったのですが、2013年の終わりから2014年に起こった事件によって、人々の意識が大きく変わったことを実感しました。

2013年11月の「ブラックフライデー」(感謝祭翌日の金曜日)の週末、アメリカの小売チェーン大手「ターゲット」(全米5位)で顧客のクレジットカードとデビットカードの情報が盗まれる事件が発生し、2014年5月にはCEOが解任されました。

理由は、ハッカーによる攻撃で膨大な顧客の個人情報が流出して巨額の損失を出したことと、情報開示が遅れたこと。サイバーセキュリティを怠れば、トップがクビになるというはじめての事件でした。

また、サイバーセキュリティに450億円もの年間予算をかける証券会社「JPモルガン」も2014年8月、サイバー攻撃の被害にあいました。これだけお金をかけても、防ぐのは難しいのです。

「世の中には、ハックされたことに気付いている会社と、気付いていない会社の2種類しかない」

私は改めて、このことを痛感しました。

さらに2014年末には、「ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)」のネットワークがサイバー攻撃を受け、Twitterアカウントの乗っ取りや情報流出などの被害が発生しました。これによってレピュテーション(評判、評価)がズタズタになりました。

この際、フリースピーチ(おしゃべり)が狙われたことで、新しい危機感が生まれました。これまでは、お金やパスワード、カード情報が盗まれることが重大視されてきましたが、「奪われるのはそれだけではない」と多くの人が知りました。会社の信用や評判、自由な発言ができる空間も狙われているのです。

サイバーセキュリティ問題によって、企業のトップがクビになり、会社の信用が落ち、国際問題が起こり、フリースピーチまで脅かされる。これらが明らかになったことで、サイバーセキュリティが今回の注目テーマになったのです。

もちろん、ユーロ+ギリシャ、スイスフランの問題、フランスのテロの影響も議論されましたが、サイバーセキュリティ関連の多くのセッションがにぎわい、出席者の関心の高さがはっきりとわかりました。

「ハイパーコネクテッド」と「インターディペンデント」

会期中、多くのセッションに出席していると、何度も耳にするキーワードがありました。

2015年の動きを考えるうえで重要なポイントになる言葉を掘り下げていきましょう。

私がもっとも印象に残ったのが「ハイパーコネクテッド」と「インターディペンデント」です。

「ハイパーコネクテッド」とは、直訳すれば「接続性過多」。インターネットを通じて、瞬時に誰とでもつながることができるということ。

良い情報も悪い情報も、すさまじいスピードで世界中を駆け巡ります。良い情報であればウエルカムですが、信用や評判を落とす情報も止めようがありません。このスピードは、私たち人間が経験したことがない速さです。そんな状況に、私たちがなかなかついていくことができていないのが現実です。

「インターディペンデント」とは、「相互依存」。お互いが密接につながり、絡み合っているということ。便利になった反面、恐ろしさもある。社会インフラから私生活までIT技術に依存している現在、システムがダウンしたら、電気、ガス、水道のみならず、通信、交通・物流、金融等あらゆる仕組みが機能を停止し、政治も経済も私生活も大混乱に陥るでしょう。

これまでの「3M」が変わった!

ピューリッツァー賞を3度受賞しているアメリカのジャーナリスト、トーマス・フリードマンは 「3Mが変わった!」と話しています。

かつてないほど、世の中がものすごいスピードで変化しています。

ひとつ目の「M」は「マーケット(Market)」。これは、市場がグローバル化したということ。

もうひとつの「M」は、「マザーネイチャー(MotherNature)」。温暖化など激変する環境問題について。

3つ目の「M」が、「ムーアの法則(Moore's law)」。

これは、世界最大の半導体メーカー、インテル社の創設者のひとりであるゴードン・ムーア博士が1965年に提唱した「半導体の集積密度は18~24ヵ月で倍増する」という法則であることは、みなさん、ご存じだと思います。

これが、新しいフェーズに突入したというのです。

近いうちに、コンピュータ(人工知能)が人間の脳を超えるということがさまざまな場面で語られています。コンピュータの進化は私たちの生活にとって歓迎すべきことですが、今後、「指数関数的成長(exponential growth)」の恐ろしさに圧倒されることになるかもしれません。

「セカンドハーフ・オブ・チェスボード」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

こういう昔話があります。

チェスというゲームはインド人が発明したのですが、このゲームに感動した王が、「何でも欲しいものをあげよう」と発明者に言いました。するとその人は「米粒をいただけますか。1日目は1粒、2日目はその倍の2粒、3日目はその倍の4粒」と答えました。

王は「そんなことなら」とあっさりOKを出しました。ところがそれは大きな誤り。はじめは1粒、2粒でも、1日ごとに倍になっていくと、気づいたときにはとんでもない数字になりました、という話です。

人類にとってこれまでは「ファーストハーフ」でしたから、変化は驚くほどではありませんでした。ところが「セカンドハーフ」に入ると、天と地がひっくり返るほど世界が一変するのです。フリードマンは、3Mが「セカンドハーフ」にさしかかったのではないかと言うのです。

いまが、ターニングポイントです。

人間はまだ誰も「セカンドハーフ」を経験していませんし、3つの変化が同時に発生しているので、これから何が起こるかを予想するのも難しい。

コンピュータの進化によって、いたるところで仕事が自動化され、従来あった職業がいくつかなくなるでしょう。「電車の運転士」に憧れる子どもは多いですが、その子が成人するころには、電車の運転士という仕事は消えているかもしれません(電車の運転席も)。そんな状況になったときに備えて「どのように教育を変えるか」というのが、ダボス的な議題なのです。

どんどん進む「シェアドエコノミー」の動き

また、私が今回のダボスで勉強になったのが、SNS、ソーシャルネットワークのあり方です。

日本人にとってSNSは、TwitterやFacebookの印象が強いかもしれませんが、グーグルドキュメント(旧名 グーグル ドックス アンド スプレッドシーツ。Googleが無料提供する、ウェブブラウザ内で動くオフィスソフト)を使ったさまざまなもののやり取りが増えています。

たとえば、クラウドファンディングで億単位のお金を集めたり、クラウドソーシングで新しいアイデアを集めたりする動きがあります。

私が「ああ、なるほど」と思ったのが、「シェアドエコノミー」が急激に伸びているということ。「Uber(ウーバー)」と「Airbnb(エアービーアンドビー)」がわかりやすい例でしょう。

「Uber」はスマートフォンで手軽にハイヤーやタクシーを呼べる配車サービス。サンフランシスコ生まれの新サービスはタクシー業界に激震を巻き起こしながら、世界中の都市に着々と進出しています。

「Uber」がすごいのは、アプリをダウンロードすれば、パリでもロンドンでも東京でも使えること。現金を持たないで精算できるし、チップもわたさなくていい。だから、両替の必要がありません(小銭もたまらない)。値段は日本とあまり変わりませんし、もしクルマの中に忘れ物をしたら、すぐに探してくれますから安心です。経路が記録されるので、はじめての場所でも「騙されてるかも?」という心配もありません。

「Airbnb」は、空き部屋などを持つ宿泊場所の提供者(ホスト)と宿泊場所を探している旅行者(ゲスト)をつなぐインターネット上のプラットフォーム。世界中の人がユニークな宿泊施設をネットや携帯で掲載・発見・予約できるサービスです。すでに世界一九〇ヵ国に広がり、昨年夏、日本法人も設立されました。2020年の東京オリンピック・パラリンピックまで、登録軒数はドンドン増えていくでしょう。

(つづく)